2010年4月20日火曜日

剣岳~池ノ谷右俣滑降

東京に季節外れの雪をもたらした低気圧と入れ替わりに高気圧がやってくる。
土曜の午後から日曜にかけて晴れの予報。

好天が約束された週末などいつ以来か。記憶に無いほど今シーズンの冬の天候は不安定だったように思う。それにしても今年の天気は異常だ(と毎年言っているが)。先週は3000m急の山々でも雨が降っている。そしてこのところ急に冷え込んで降雪があった。その影響がどう出ることか。

予定外のトラブルで出鼻をくじかれる恰好になったが、そこはなんとかリカバリ。記憶に残る山行となった。

■4月17日(土) 晴れ
7:30新宿~13:20信濃大町~14:00扇沢~15:40室堂~18:00剱御前小舎~18:30剣沢(泊)
■メンバー
N島さん、私

4月17日土曜日の朝、東京は雪。41年ぶりに観測史上タイ記録となる遅い降雪だという。そんな事情もあり、ビーチサンダルはヤメにして兼用靴で自宅を出る。

新宿であずさ3号に乗車。N島さんや同日程で剣沢入りするパーティーの4名がそれぞれの駅で同じ電車に乗り込む。それほど混んでいない車内で6人が一堂に会して今回の計画のあれこれを話しあう。

線路内倒木により復旧見込み無しの社内アナウンスが流れる。塩山駅に停車したまま時間が過ぎる。もともと早いとは言えない時間の室堂入りなので余計に気が急く。どうにか2時間遅れで塩山駅を出発し、2時間半遅れで信濃大町駅に到着。もちろん特急料金は払戻された。扇沢行きのバスはあずさ3号の到着を待っていてくれた。

午後2時扇沢発のトローリーバスに乗り込んで喜んだのもつかの間、黒部平のロープウェイで1時間待ちだという。やはり立山黒部アルペンルートはこのロープウェイが鬼門だと。嘆いてもしかたがないので定番の白えびかき揚げそばをたいらげる。

室堂には4時前に到着。雪は多くほどよく新雪がのっている。周囲の山々には滑降のトレースが見えるが思いのほか少ない。人為的な点発生雪崩の跡が見えるものの、危険な雪崩の兆候は見られない。


7m以上ある積雪の地面まで穴を掘るという仲間に挨拶をかわして剣沢へ向けて予定を決行する。

穴掘りの絵

この時間に登っている人はごく僅かだ。室堂乗越付近に見えた撮影隊らしきパーティーと、雷鳥沢上部ですれ違った滑降するパーティー。
われわれはひたすら登る。

(N島さん撮影)

剱御前の小屋にきてようやく剣岳に対面。


すでに夕暮れに近く、空はかすかに赤らんでいる。

誰もいない剱沢を6人で悠々と滑降。



平蔵谷出合でのビバークを予定。実は長次郎谷の出合でビバークしていたことは翌日になって気づいた。

■4月18日(日) 晴れ 稜線で風強い
5:20長次郎谷出合~8:30長次郎谷右股コル~9:40剣岳~池ノ谷右股滑降~13:20馬場島

ツエルトと薄いシュラフでのビバークは懸念したほどの寒さではなかった。ここで小黒部谷を滑降するパーティーの4人と分かれる。すでにヘッデンは必要ない明るさ。

登り始めた長次郎谷は上部にはすでに陽が差している。暖まって緩むと雪崩る雪ではあるが、この時間帯は問題ない。
標高をあげるにつれ、沈まないナカ雪、沈むモナカ雪、アイスバーンに乗った粉雪へと変わっていく。


ちょうど熊野岩のあたりで日射を受ける。急に暑くなる。


去年滑った剣岳北壁。雪は多い。
稜線では強風で雪が舞う。


長次郎谷を詰め上がる少し手前で板を担いでアイゼンに履き替える。風の強い稜線での作業を減らすべく、ここでシールもはずしハーネスを装着する。
膝ラッセルで稜線に上がる。

頂上直下の雪壁。

ほんの20mくらいではあるが、今シーズン冬の登攀をほとんどやってきてなかった私には厳しいものになった。新しい雪は全部風で吹き飛ばされ、先週の雨で凍結した固い雪面が露出している。

ピッケル1本でじわりじわり登りながら、先にフィックスロープまで登って確保(?)したN島さんにロープを垂らしてもらった。

雪壁を登り終え、剣の頂上まではステップを踏むのみ。
(N島さん撮影)


剣岳のピークでポーズ(N島さん)。

風が強いのでそそくさとピークをあとにする。
上部は雪がついていないため、剣岳ピークから少し下った平らな場所からさらに池ノ谷へクライムダウンする。岩場で雪が吹き溜まった場所で板を装着。


新しい雪は薄く、その下はガリガリの氷。氷が露出している部分もある。新しい雪が載っていない部分は滑降不可。氷の箇所を横滑りで下降していたN島さんは脚をとられて滑落。あっという間に急斜面に消えてく。急いで追いつこうにも、固い斜面がそれを許さない。N島さんは斜面の途中で止まっていた。ようやく見えるところに降りたとき、無事の合図を送ってくる。大きな怪我は無いようだ。

行く手は先が急斜面で先が見えない。滑ろうにも雪がついていなければアウト。左のリッジを超えるにも、氷の面が露出しているので滑降してトラバースするのは無理。ここは板を脱いでアイゼンでトラバースすることにした。

リッジを超えてアイゼンのまま、M浦さんの記録によるところの略奪点だろう場所まで下降する。

略奪点にて。

この左には(下から確認したことだが)大きな滝がある。右手には綺麗なスロープ。スキーにはきかえて慎重に滑降再開。

傾斜がいくぶん緩んだこともあり、ようやくの滑降。とはいえ雪は固くパックされているので、なかなか快適に飛ばすことはできない。

人の顔みたいな雪形がN島さんを眺めている。

雪は次第にストップスノーへ。

そして池ノ谷ゴルジュへ突入。なんと先日の雨のせいだろう、ゴルジュ上の雪が全部落ちて谷は綺麗に埋め尽くされている。過去に歩いて通過したN島さんによると、その時はトラック大の雪のブロックが今にも落ちそうにぶら下がっていて、冷や冷やしながら通過したのだという。今回その様相は全く無い。

白萩川に出て、ひとまず危険地帯は突破。

割れた箇所をよけながら通過し、取水口の堰堤と橋で板を外しただけで馬場島へ滑って到着。警備員に挨拶。

まだ開いていないゲートにタクシーは迎に来てくれず、とぼとぼと伊折まで歩き出す。ゲートまでは徒歩1時間半。途中、馬場島荘の小屋開きに着ていた人に拾ってもらいゲートまで。なんと鯖寿司までいただいた。タクシーで上市。温泉に入って富山駅へ。

滑降ルート(N島さん作図)

5 件のコメント:

匿名 さんのコメント...

いい山行だね。
お疲れ様です。

スキーは山では強いけど、あの稜線でもし強風ふいたらどうするの?停滞?戻るのか?

とにかくご無事で何より、天気も恵まれたね~。今週末もいいみたいだね。

タケ さんのコメント...

ほんとスキーは担いだときが最大の弱点。強風の時は前にも後ろにも進めません。

停滞するかスキーを置いて避難するかして、風が止むまで待つしかないかな。

行くも戻るも判断が難しいですね。

むらちゃん さんのコメント...

タケさん、初めまして。
Googleの検索からやってきました。

憧れの池ノ谷、その右俣は過激な滑降コースですね、参考にさせていただきます。

それにしても相変わらずM浦さんも元気そうですね、先日たまたま20年前の塩見岳をブログにアップしたところです。

むらちゃん さんのコメント...

タケさん、右俣の件、質問させてください。
O橋さん、M浦さんは山頂より早月尾根寄りからエントリーされたと記憶しています、沢筋をほぼ真っ直ぐ滑って左尾根を乗り越し(大滝回避のため)大滝下というのが攻略概念ですがいかがでしょうか、それにしても右俣はほんとうに刺激的な滑降ルートですね。

タケ さんのコメント...

M浦さんのラインはおっしゃるとおりです。
我々は大滝とは別のところで下れなくなり、アイゼンにかえて大滝のラインに乗りました。
ほんと刺激的すぎました。急斜面滑降の洗礼をうけた感じです。